ビッチは夜を蹴り飛ばす。
 

「遊園地に来たかったの、鳴」

「ノンノン、これは作戦と言う名の会議だよ硯くん」


 かいぎ、ってかろうじて日本語を喋る硯くんの舌ったらずっぷりは言葉を覚えたての赤ちゃんみたいで、うん、って強く頷いてぐいーって硯くんの手を引っ張る。

 あたしを見縊(みくび)ってもらっちゃ困るんだよ。何かの手違いで濡れ衣を着せられてそれになんの身に覚えもなくて学校って牢獄みたいな社会から総スカンくらって便所ルート一択であってもさ。

 いつまでも挫けてらんないじゃん。


 たとえ一昨日映画のワンシーンみたいなアウトローな集団に拉致られて好きでもないやつにちゅーされて、バイクが爆発・炎上するみたいな事態に見舞われても。
 嘘みたいなほんとの話にあたしたちってたぶん立ち向かわなきゃなんないの。


「だからむつかしいことは楽しい場所で考えることにした!」

「あほやん」

「硯くんも一緒にバカになってくれるかなー!?」

「いやですう」


 だめでーすってくるって踵を返すその背中に飛びついて、まずあれ、ってその遊園地で3つの指に入る絶叫アトラクションを指差して、硯くんに並んでもらってる間にあたしは他のアトラクションのファーストパスを取るために四方八方に走り回っていたりした。

 絶叫三大アトラクションのあと二つでしょ。頭真っ白にするための45分お化け屋敷に落下するエレベーターに、それから、えっと、それから、それからそれから










「暑さにやられだ」

「あーあ」


 絶叫三大アトラクションのまず一つ目に乗るために順番ギリギリで硯くんと落ち合って無事遊園地一番のアトラクションに乗れた、までは良かった。
 絶叫って楽しい。頭真っ白になるし。嫌いじゃないし気持ち悪くもなかった。でもさ。今って季節夏でさ。あたしって最近ごはんちゃんと食べてなくてさ。暑くてさ。生理不順でさ。そんでさ。えっとさ。

 朝の光なんて普段まともに浴びてないんだ。


「あたしも夜行性なの忘れてたようう」

「おれだって今日2時間しか寝てないから」


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