ビッチは夜を蹴り飛ばす。
軽々と脇の下に差し込んだ腕に体勢を変えられて、栃野に座るような形にされる。左手は胸を愛撫しながら右手は無理にスカートの中に差し込まれて、下着の中で自由に動作する。
栃野は弄ぶだけで挿れることはしなかったけど、そのしつこい行為を重ねることであたしが栃野の優しさに浮かされて落ちるって思ってる。だからやらかく耳に好きだってつぶやいて、無理に達したあたしに可愛いって頰を撫でる。もう二週間、二週間ずっとこんなで。
「俺と関係あったら他の男から逃げれるからいーじゃん」
全くお門違いなのに、本物のビッチに成り下がる理由を栃野があたしに寄越した。
ナカジを理由に栃野はあたしに呪いをかけたのだ。
「トドっ」
パタパタかけてきたナカジに振り向いて笑う。ナカジが手を置いたあたしの肩はさっきまで栃野が抱きしめていた痕で、あたしを介してナカジが穢れるような気がして軽く避けたら、ちょっとなんとも言えない顔をされた。
「トド、最近急にいなくなっちゃったりするから見つけんのやっと」
「へへ。かくれんぼしてる。ナカジがしつこいから」
「なんだとー!?」
うりゃー、とヘッドロックされて高い声で笑い合う。それだけでよかった。全く自虐的な偽善だけど、あたしのせいでナカジに危害が及ばない保証を、あたしはどこかで求めてたんだ。あたしみたいなこんな噂が立ってる人間のそばにいて何もないなんてあり得ない。それならナカジの知らないとこであたしがめちゃくちゃになって、この今があって、その方が安心出来た。
深夜が遠ざかっていくから昼間に焼かれて死にそうだ。
硯くんが前に言っていた、まともじゃないは真実だった。世間一般の枠組みに入る代償があたしには大きすぎた。
…硯くんとももうしばらく会ってない。会えない。会わない。会いたい。
硯くんは聡い。だから、たぶん今のあたしが会いに行ったら全部見透かされて、そして、そしたら、あたしのために泣いてくれたりすんのかな。ないか。
大事なものが出来ることは、弱さを作ることだ。そして人はそれにより強くなれる、そんな馬鹿げた定型文はどだいこの世には存在しない。