ビッチは夜を蹴り飛ばす。
けたたましい雷に土砂降りの雨が夜の中に鳴り響いて、でも構わずずぶ濡れのまま目的地に辿り着くと人工的な明るみは間の抜けた音楽であたしを招き入れてくれた。
そのまま踏み込んでレジに直行した深夜2時、振り向いた硯くんが珍しく驚いたみたいな顔をする。
「………しばらくじゃん。てかお前ずぶ濡」
「42番」
「え?」
「42番!!!!!!!!!!!!」
吸いもしない煙草の番号を叫んでレジカウンターをぶっ叩いたあたしに硯くんは落ち着いた動作でピッて42番のバーコードを読み取った。
そして煙草を差し出すのに俯いたままのあたしの顎を人差し指で下からくっ、と持ち上げる。泣き腫らしてぐずぐずになったあたしの涙を拭う手は、感情の起伏が見えない瞳に反して壊れ物に触れるくらいやさしかった。
「…きいて」
「うん」
「…校長ぶん殴って停学くらった」
なにそれ最高じゃん、ってこんなときそれでも笑ってくれるのは、この世界で多分、硯くんくらいだ。