ビッチは夜を蹴り飛ばす。
 


 あたしたちは反抗する。


 それを〝世界征服〟と名付けたら、硯くんにちんけ、って笑われた。でもね思うんだよあたし。どんなに間違ってることを胸を張って叫んでも届かないし、70億も人がいればそれだけの正義が存在する。それを我が物顔で振りかざすのは違うから、一度立ち止まって考えてみて欲しい。言葉でいとも容易く伝えられる時代だからねえ、ちゃんと声を上げていうけどさ。そこ。そこにいるあんただよ。あたしもそうだし、あなたもそう。

 笑われたことを笑われてでもやってのけるくらいじゃないと、世界なんて変えられない。












「歴史に名を刻む()犯罪になるかもね」

 金属バッドとカラースプレーを大量に携えて深夜の学校に乗り込んだあたしたちを、公立の学校風情じゃ捉える防犯カメラもない。
 ふわ、ってあくびした硯くんになにそれ面白くない、って笑ったら、警察の特殊部隊みたいな完全防備をした硯くんのお腹の様子(キズ)が気になった。


「後悔ないんだな」

「うん」

「怖くは?」

「硯くんがいるから大丈夫」

「俺のこと大好きじゃん」

「うん」


 だから覚悟してね、って伝えるあたしを他人事みたいにかわしていくか、って碧い目が物々しい学校(かいぶつ)を睨んで、正面から頷いて乗り込んだ。

 間違ってるから叫んだのに聞き入れてもらえない。本当を叫んでも人は人を傷つける。気に入らないから間違ってるから正しくないから腹が立つから気に食わないから狂ってるから、あたしはあたしでいるために全部全部全部全部全部全部全部全部全部壊すことにした。


 金属バッドを振り回し窓ガラスを片っ端から全部割り、黒板にカラースプレーで落書きをし、散布しながら廊下を走り抜け、床も壁も柱も天井に至るまでそこかしこぐちゃぐちゃに掻き乱して笑った。


 そこかしこ乱して壊してそんじょそこらの数日じゃ再開できないように秩序も正しいも全部ぶち壊してひん曲げたら、まるで正しかったものがそもそもおかしかったみたいに壊れた。

 正しいなんてそんな形をした嘘なのかもしれない。

 笑いながら全部壊すあたしを、お腹痛いわって傷口を押さえながらそれでもここ一番の笑顔を見せる硯くんと、飛び散るガラス片を避けながら壊した。壊した。ぜんぶ、壊した。


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