ビッチは夜を蹴り飛ばす。
02.ひとつひとつは宝物、群れを成すとならずもの



 人間の本音を吐かせようと思ったら相当の労力を有するしそれには相応の代償が伴うよわかってんの轟木(とどろき) (めい)、って(すずり)くんが一息で言うからあたしはあたしの手段を大事にする必要があった。

 硯くんのいいところは他人を否定しないとこだ。頭ごなしにこれじゃない違うって言わない。それは魂の洗濯であたしの心の拠り所にもなって、それって要するに深夜のコンビニなんだよね。

 だってほら、闇夜にぽっかり浮かぶ様がさながらセーブポイントみたいじゃん。




「イカくせぇ」

 
 後ろの扉から人が登校するなり言うことがつまんない。

 全然まんじりとも面白くない誰かの声にクラスの多くが嘲笑ったって関係ない。くすくすくすって笑い声が他の誰でもないあたしに向けられていたとしたって、

 どかどか歩いてあたしはあたしが目指した用事に辿り着いたし、そしたら外野の二人が怪訝そうに眉を顰めて(スイ)ちゃんだけが二人に体を向けたままあたしにチラッて目を向けた。


 煙たがってさ徹底的に。人ってこんな行動一つで他人に向ける目変わんのね。


「スイちゃんに聞きたいことがある」

「おお? 修羅場かー?」

「はい皆さんちゅうもぉ───くビッチが女神に仰せでーす」


 ぱちぱちって湧く謎の歓声と雑な心無い拍手のなかスイちゃん、って呼んだらお前らうるっせえんだよ、って叫んだのはスイちゃんの方だった。
 いつも綺麗で。前髪を作らずおでこを出して明るい髪をしなやかにしてるスイちゃんの冷静は今日どうも出張中で、縮み上がるみんなの目があたしとスイちゃんだけに注がれる。


「言っとくけど私じゃないよ、犯人探しなら他当たんな」

「…スイちゃんあれあたしの仕業じゃないって信じてるの」

「私は自分で見たものしか信じない」


 あぁ、なんだか実はめちゃくちゃ心強いひとだったみたいだ、この子は。

 大衆に流されない独立した強さってのは、こういう狭苦しい社会心理の中で鋭い輝きを放つ。ひょっとしたら間違ってもあたしはこの子ともっと仲良くなっとくべきだったのかと思うけど、

 


「私はあんたとは違うから」


 この言葉の意味として、スイちゃんは誰の味方でもないということ。

 やっぱりあたしが信じた感覚が嘘やまがい物じゃないってことだけだった、証明出来たものなんてのは。


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