ビッチは夜を蹴り飛ばす。
 

「………き、すのほう?」

「他になにがあんの」
「いや、あの」
「今日はいい」


 今日は? って引っかかりつつ体を剥がして硯くんが座るから、あたしも起きて、そんで口を閉じて、ぎゅって目を瞑ってでも力は入れないように思いっきり自分の唇を硯くんに押し当てる。触れたら跳ね返るくらい柔らかくて、ふに、って感覚があったらそれだけでぞわ、って足の爪先から背中のあたりまで甘い痺れが湧き起こったのに、それでどうしたらいいかわかんなくてすこしだけ離した。

 至近距離で碧の瞳と目があって、そのエメラルドが綺麗、って思ってたら光が線になってあたしに触れる。

 同じように少し触れたかと思ったら、でも違くて。(ついば)むように角度を変えて、何度か触れて離れて、触れて、を繰り返して、あたしの唇を舌がぺろって、舐めた。


「わ、ぅ」


 声を出したらそれが合図みたいに飲み込まれる。

 唇を開いたのが最後で、始まりだった。

 口の中のあちこちを探っていた舌がどうしていいかわからないあたしの舌を見つけてきゅうっ、て絡めて、それに強く目を閉じてぎゅって硯くんの肩あたりの服を両手で強く掴んだら少しだけ距離が空き、繋がっていた光の糸が一瞬で切れてしまう。


「………口に手、入れていい」

「………や、らぅ」


 やだよ、って伝えても聞き入れてくれないんだ。知ってたけどね、って無理くりねじ込まれた硯くんの細くて長くて、でも紛れもなく男のひとである指があたしの上顎をなぞって、ぞくって震えたのをいいことに指先が舌を捕まえる。そのまま軽く引っ張って「えぅ」ってみっともない声が出るのに、(よだれ)を垂れ流して恥辱に顔を赤らめるあたしを見て、硯くんは嗜虐(しぎゃく)心満載の瞳で満足そうに(わら)うんだ。

 知ってたけど、知ってたけどこの人の性的嗜好はやっぱりなかなかに歪んでいる。

 掴んだ舌で濡れた手を舐め上げて、「脱いで」って言われた。
 一瞬ぇ、って小さく声を漏らして、それでもゆっくり上の服をたくし上げようとしたら待ったをかけられる。


「違くて」

「え、でも、っ!」


 なんで、って訊こうとしたらショートパンツの中に硯くんの手が滑り込んできて、ショーツの上からくっ、って触れちゃいけない芯みたいな部分に中指が触れた。キスだけで欲情してたのも、そこに触れられたら嘘がつけない。


「すぐ濡れるじゃん、えろ」

「ちが、硯くんが」

「おれが何」


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