ビッチは夜を蹴り飛ばす。
Day.2
男と女は一回したらそれっきりとか言うけれど、実際あたしはその逆だった。
初夜は乱暴に抱かれたのにそれがおかしくなるくらい気持ち良くて、もっと知りたいと思ってしまって、硯くんの普段聞こえない息遣いとか、匂いとか。
その全部全部網羅して硯くんを知り尽くしたいなんて、これじゃ本当のビッチみたいだ。
夕方、リビングでPCに向かい合ってた硯くんを見ながら、ふーんって冷蔵庫に入れた今自分の中で流行ってるココナッツミルクジュースをマグに入れてこく、って飲む。
それから壁伝いにつつつー、って指で遊んでちょっと離れて座ってから、とおい、って思ってよじよじしたら「何?」って訊かれた。なんかな。奇行全部バレてんの。絶対硯くん頭の後ろにも目、付いてるよね。
「べつ、にー」
「あっそ」
「何してるの?」
「書類作成」
こっち来てからやることてんこ盛りだよ、と言って頑張ってくれる硯くんに丸投げしてるけど、実際日本人がハワイに来て暮らすだけでもやっぱり色々あるみたい。だから手伝おうかって訊くけど硯くんは自分でやる方が早いって言い切るし、なんかただのお荷物感半端じゃないけど、でもいなくなったら血眼で探してくれそうな硯くん。かわいいやつめ。
腕組みしてふんふん頷いてたらいつの間にか見てた硯くんに白い目で見られた。だからそれやめてって。
「身体大丈夫」
ふ、と突拍子もなく言われて、労られてることに思わず仰天した。実はめちゃくちゃに硯くんとした翌日、あたしはベッドから微動だに出来なかった。なんか謎の熱も出て、それは完全に知恵熱みたいなのだったんだけど、硯くんが愉しそうにしてくるから渾身で睨み続けて、で、昨日よ、二日めの昨日の夜やっと動けるようになったんだよね。
それから三日目の今日なのに、硯くんはそんなこと言う。そこで心臓がきゅ、ってなってじたばたしたくなって、堪らずにもっと近くにいって頭をこつんと硯くんに置いたらやめてって言われた。やめません。
「…だい、じょぶ」
「ならよかった」
「硯くん」
「ん」