裏切り姫と恋の病
母が生きていた頃は、優しかったことだけは
記憶の片隅にある。
なにをどう優しくされたかなんて、分からないけど。
あの男は優しかったの。
そのせいで、母親が亡くなって、しばらくしてされた暴力は。
抵抗なんかできるほど、理解力があるわけじゃなかった。
小さい頃はあの男の事が、本当の父親として好きだった。
顔つきも、雰囲気も全然違う。
似てるとこなんてない。
血が繋がってないことを知ったのは、小学生の頃。
その頃かな。
『幸子の奴、くだらねえもん置いて逝きやがった。』と、あの男が言うようになったのは。
理不尽な暴力に怯え。自殺だって何度考えたことか。
だけど、こんなに痛い目にあったいるのに。
痛みで終わるなんて、それこそ私にとっては恐怖で。死ぬことなんて出来なかった。
だから逃げ出した。
私のお腹は空腹にはなれているせいか
路地裏で2日、食べなくても平気だったけど。
さすがに喉の乾きはどうやっても誤魔化せないから
路地裏を離れて公園の水飲み場で喉を潤した。