裏切り姫と恋の病
その日は路地裏で寝た。
ホームレスのおじさんがゴミ箱を漁る姿を横目に、一夜を明かした。
路地裏は、油臭いし。
人の歩く音が、鍋で煮込み料理を作っているときのグツグツとした音に聞こえて、ずっとうるさいまま。
夏だったので、すぐに体が臭くなる。
だけど、不思議と。
あのアパートに帰ろうとは思わなかったんだ。
あんな所に帰るくらいなら
ここで野垂れ死んだ方がマシだって、あの時は本気で思ったの。
母親は私が五歳の頃、病気で亡くなった。
母は二度目の再婚だったから、私は連れ子で。
今の父親役の男と私は、血は繋がっていない。
だから単純に、私が邪魔だったんだろう。
『幸子の奴、くだらねもん置いて逝やがった。』
あの男の口癖だ。
幸子は、私の母親の名前で。
くだらねえもんは、私。
私はくだらないものらしい。