ボーダーライン。Neo【下】

 交通機関を使い、ロンドンにある国立美術館、ナショナルギャラリーを目指す。

 今までに何度も行った事のある場所だが、来る道すがら色々と風景が変わっていて、少し新鮮な気分になる。

 まだ午前中の時間帯のせいか、ナショナルギャラリーに面した広場は思ったより人が少なかった。

 トラファルガー広場を縦に進み、噴水を抜ける。

 およそ七年前、幸子と二人で写真を撮った場所まで進み、近くの石段に腰を下ろした。

 背後にはネルソン提督の記念碑が有り、その四隅をブロンズで出来たライオン像が囲んでいる。

 果たして、幸子はここへ来てくれるだろうか?

 幸子があのメッセージに気が付くかどうかは、言ってみれば賭けみたいなものだ。

 六月に入ってから、僕はこの日のために多忙な毎日を送ってきた。

 それというのも、大幅なスケジュール調整を、自らでお願いしたためだ。

 とにかく六月十七日から一週間、休みを取らせて欲しいと言うと、マネージャーの竹ちゃんはかなり戸惑っていた。

 今までそんなに長い連休を欲した事など無いので、僕の心境に何か変化でも有ったのかと心配すらされた。

 仕方なく、今までの経緯や事情を全て話し、我が儘を聞いて貰った次第だ。竹ちゃんの尽力に応えるためにも、この一週間、失敗は出来ない。幸子とすれ違う事だけは避けたい。

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