ボーダーライン。Neo【下】
サプライズ・リリースと題して、大々的に宣伝させると竹ちゃんが言っていたが、本人に気付いて貰わないと意味がない。
気付いたところで、わざわざイギリスまで来なきゃいけないのだから、迷惑かもしれない。思えばかなり強引なやり方だった。
日本ではゆっくり話せないと思った事もそうだが、結婚を前提にまたやり直したい、その為に両親にも会って貰いたい。僕はそう考えていた。
ーー「大切な人と。無事会えると良いですね?」
不意に昨夜偶然会った笹峰さんの言葉を思い出した。
イギリスへ発つ前、空港内でスーツケースを転がしていた時の事だ。
日本時間で午後八時を過ぎた頃、突然「Hinokiさん?」と髪の長い女性に呼び止められた。
人通りの多くない空港内で、ある程度変装はしていたつもりだが、存在がバレて多少なりとも焦った。
女性は、サングラスを掛けた女優、笹峰優羽さんだった。
彼女は恥ずかしそうに会釈し、お久しぶりです、と続けた。
「あれ以来、ですね?」
一度外したサングラスを掛ける彼女を見つめ、僕は、ええ、と頷いた。
あれ以来とは、記者に写真を撮られたあの夜を差していた。レイトショー後の映画館でばったり会い、笹峰さんを自宅まで送った夜だ。
あのスキャンダルから四ヶ月もの月日が流れていた。