ボーダーライン。Neo【下】
「今から六年ぐらい前になるかしら。悠くんよりも年下の秋月さんが、幸子さんと結婚させて下さいって。頭を下げに来たわよね」
「……うん」
「お母さんね。実は秋月さんに言い過ぎたなって……、あの時は悪い事をしたなって、少しだけ後悔してたの」
「え……?」
「まだ高校生で、若いからこそ、結婚がどういうものかも分かってなくて。でも、幸子を好きだっていう誠実さだけは伝わった。
それなのに、あの時は無碍に突き放したのよね」
「……」
「幸子の教え子で、その上芸能界の仕事を夢見てるなんて、全く地に足が着いてないんだもの。
幸子と一緒になっても、幸子のお給料をアテにして、あんたの部屋にずっと住み続ける彼を想像したわ。
そんなのヒモも同然じゃない。それこそ幸子が妊娠でもすれば、幸子に全面的な負担がかかる。
お母さんはね、娘が苦労するに決まってる、そう思って、秋月さんを突き放したの」
「……うん」
「でも。幸子が彼と別れてから、春ごろになるかしら。お父さんと偶然、テレビで秋月さんを見かけて。それからは自然と彼の活躍を二人で見守るようになったの。
芸能界でのデビューが決まって、想像もつかない程厳しい世界だろうに、頑張って知名度を上げて。あの時幸子と一緒になっててもきっと彼なら同じように頑張れたんじゃないかって、後になってから思うようになったの。
そう思ったら……心無い言葉で傷付けた自分を責めたわ。
芸能界なんて安定とは程遠い世界だって決め付けて。まぁ、確かにそれが一般論なんだけど、偏見で物を言って悪かったなって」