僕らはその名をまだ知らない

“志摩結弦は幼なじみの日吉礼のことが好きらしい”



きっかけは、そんなありふれた噂話。



誰が誰を好きだの付き合っただの、恋に恋するお年頃の噂話をまさか信じたわけではなくて、志摩ならきっと笑い飛ばしてくれると信じていたんだ。



ほんの少しの動揺と戸惑いが、私の瞳を揺らす。



あぁ、どうしてこんなことを聞いてしまったんだろう。



「困ってる」



志摩は目を細め、口元に微笑を浮かべた。



志摩の綺麗な手はシャーペンを握ったままだ。



ぐらぐら、志摩の手が動く度に同じように動く。



「…だって、志摩は幼なじみだと思ってた」



志摩はずっと近くにいて、でも男とか女とか、そういうものは何も無くて、志摩だから傍にいられた。



それが心地よかった。



でも、



───好きだよ



志摩は私のことを好きだと言う。
< 2 / 7 >

この作品をシェア

pagetop