すれちがいの婚約者 ~政略結婚、相手と知らずに恋をしました~
### 34

「やっぱり…ベルデ様だったのですか」

「ベルデは幼い頃に愛称として付けられていた呼び名なんだ」

驚きの表情の彼女も可愛く見えて、笑みが浮かんでしまう。

「ていうか、もしかして私のことも…」

「うん、気づいてたよ。ユナ=シーラ=タヤカウ。本好きの公女様」

「いつから…」

「図書室で何回か会った頃かな、学生にしてはなんだか違うし、少し気になって調べさせた」

「そんな初めから…」

「情報を得ようと私の周りを探る者も多々いたからね。私が指示するより先に、護衛が調べてた」

「え?」

「図書館通いに見咎められたり、危険な目には合わなかったでしょ?」

「確かに…」

彼女の視線が扉に向く。たぶん護衛の者の存在を感じているのだろう。

「私自身も忙しくてなかなか時間が取れなかったから。図書館でユナと会う時間ができることは良かったんだ」

夜遅くに呼び出すこともできないしね、不本意な噂が立つと厄介だしと呟く。

「図書館でのユナを見て、着飾っていない貴女に興味を持って、自分でも信じられないほど惹かれていきました」

彼女に向けて手を差し出す。

「私も…何も言わず、知らない振りでいてくれたから図書館通いも楽しく感じたんだと、今なら思います」

本音の告白。

躊躇いながらも手を重ねてくれた。

逃がさないとばかり、手を掴む。

宴の際に初めて繋いだ手。

彼女の手を取って感じたのは、自分以外がこの手に触れるのは嫌だと思った。

彼女の温かさを感じるのは自分だけでありたいと。
< 34 / 39 >

この作品をシェア

pagetop