すれちがいの婚約者 ~政略結婚、相手と知らずに恋をしました~
### 9

図書館から出てきた女性の後をつけていく。

ここ数日に夕方から夜にかけて幾度か図書館を利用している女性。

ただそれだけなら尾行などしないが、本を読むときにいつも座る席が、彼の護衛対象である者の傍だった。

故意に近寄ろうとしているのか、ただの偶然なのか。

それをしっかりと確認して悪意がある者を排除するのも役目。

キョロキョロと周りに警戒しながら進んでいく彼女の先は、学生棟でも外でもなく、王宮。

これは何かあるなと気を引き締めて尾行を続ける。

王宮へと続く渡り廊下を足早に駆け抜ける。

渡りやがった。

その時点で不審者として充分束縛できる理由になる。

でも何のために、誰のためにそんな行動をとっているのかを調べるのも護衛、いや諜報の役目。

王宮内に入った彼女は、人目を忍んで先に進む。

そして、先からやってた者に気付き足を止めたが、それが誰か分かったのか、警戒を解いて走り寄った。

しっかりとした武官の体型。

彼も不審者かと正体を見ようとして、すぐに気付く。

あれは…タヤカウの姫君の近衛騎士か。

近くに護衛対象の居室があるので、ここにいても何の不思議はない。

彼女は近衛に促されるようにして、早々に姫君の部屋へと入って行った。

どういう関係だ?

疑問が浮かぶ。

「何者だ」

自分と同じ疑問を誰何されて、声の方向を見る。

彼女だけを部屋へ戻し、廊下へ残った近衛の彼が、警戒しながら尾行していた自分の存在に気付いていた。
< 9 / 39 >

この作品をシェア

pagetop