心の鍵はここにある

 三百五十mlの缶チューハイをようやく半分近く飲んだ辺りから、何だかフワフワと気持ち良くなって来た。
 ……酔いが回って来た様だ。
 そんな私の様子を直哉さんは見逃す筈はなく、缶チューハイを取り上げられると……。

「里美、あっちに行こうか」

 私は抱き上げられて寝室へと運ばれた。俗に言う『お姫様抱っこ』状態で、ダイニングから寝室まで運ばれた。
 寝室も、いつの間にエアコンが入っていたのか快適な温度で、思わず直哉さんの首にしがみついた。

「だいすき……」

 囁きは、直哉さんの耳に届くか届かないかの小さな声だった。
 でも、その言葉は、直哉さんの耳に届いていた。
 ベッドの上に横たえられて、私の髪の毛を指ですくいながら、極上の甘いキスが降り注いでくる。
 唇に、まぶたに、おでこに、頬に、鼻の頭に、顎に、耳に、首筋に……。
 露出している肌全体に、優しい愛撫が施される。直哉さんの指先が、手のひらが、肌全体が熱を帯びている。
 全身で、私を欲しているのがわかる。
 私はお酒に酔っている事もあり、いつもだと言えない言葉も勢いに任せて言ってしまえそうだ。

「直哉さん……。私、うまく出来ないかも……。まだ、こんなこと、した事ないから……。だから……」

 私の言葉は、直哉さんの唇で塞がれる。蕩ける様な甘く、深いキスが落ちてくる。

「里美は何も気にしなくていい。ただ、感じてて。俺を……。里美の全てを、俺に見せて……」

 私の耳元で囁かれ、そのまま耳にキスをされながら、直哉さんの手が、いよいよ私の胸に触れた。
 いつも手を繋いでくれる、その温かくて大きな手のひらが、私の胸をそっと包み込む。
 キスとお酒の酔いで蕩けている私は、その温もりを感じ、ベッドの上でだらりとしている自分の腕を彼の首に回して自分の方へと引き寄せながらもっと深いキスをねだった。
 寝室には、リップ音と唾液の交わる淫靡な音が響いている。
 お互いの舌を絡ませ合いながら、お互いの唾液を交換する、深い口付けに夢中になり、いつの間にか直哉さんの手が服の中に入って来てブラジャーをずらしている事に気付かなかった。
 直哉さんの指先が、私の胸の頂を優しく摘み、そしてそれを優しく転がしていく。
 初めて感じるその刺激は、まさに私の身体に電気が流れていく様な気がして、驚きのあまり、身体が弓形(ゆみなり)になる。

「あっ……、あ……あっ……」

 自分の口から出る淫らな声で恥ずかしくなった私は、顔を思わず背けてしまう。
 それを彼は許さないと言わんばかりに、胸を触る反対の手で私の頬に触れ、キスを続ける。

「里美の可愛い声……、もっと聞かせて……」

 キスをしながら息継ぎの合間に囁かれ、ますます蕩けてしまう私を、彼は熱を帯びた色気たっぷりの視線で見つめている。

「可愛く……な、んて……なぃ……ょ……。はず……、し、い……っん……っあ……」

 私もキスの息継ぎの合間に反論するも、もはや反論にすらなっていない。
 喘ぎ声を出せだなんて、はしたない……。
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