心の鍵はここにある

 一度ならず二度とそんな事はさせない。
 念書を書かせ、次にそんな事があれば学校と教育委員会にいじめとして通報すると。
 と同時に目障りだから、自ら退部する様に追い込んだ。
 アイツらが里美の側にいると思うだけでイライラする。

 自分の気持ちを自覚したものの、女子生徒にモテるとは言えお付き合いをした事がなかった俺は、正直言って、どうすればいいかなんて全く分からなかった。
 里美もお付き合い経験がないと言っていたし、休日にデートなんて自分から誘うなんて恥ずかしくて出来なかった。
 だから、部活終了時に一緒に帰る制服デートしか出来なかった。
 当時の俺に出来る精一杯の自己アピールも、恋愛初心者の里美には通じない。

 勇気を出して休日デートに誘っていたら……。きちんと自分の気持ちを伝えていたら……。
 急に里美が居なくなって、里美が仲良くしている女子バレーの後任マネージャー、守野さつきに里美の事を聞いてみても、睨まれるだけで何も教えてくれなくて……。
 失意の中、彩菜から聞かされた衝撃の事実に、俺は打ちのめされた。

 あれは夏休み入ってすぐの事ーー。
 彩奈に体育館裏に連れて行かれ、里美をニセモノの彼女から本当の彼女にすれば?と言われた時に、俺は彩奈に自分の気持ちを知られるのが恥ずかしくて思わず言った言葉、『里美だけは無理』。
 これを本人が聞いていた、と……。
 そして、その日の夜に父親が転勤の内示を受けた事。
 俺の言葉が決定打になり、黙って徳島へ引っ越した事。
 彩奈が俺の落ち込み方がハンパない事を心配して、俺には内緒と言って無理矢理守野から聞き出した話だ。
 だから守野には絶対に言うなと釘を刺された。

 どうしてあの時、恥ずかしいと思ったのか、何故あんな事を言ったのか、自分を責め続けた。
 もし里美に再会出来たなら、あの時の公約通り、ベッタベタに甘やかして、溺愛する。
 誰に何と思われようが、何と言われようが関係ない。
 俺は五十嵐里美が好きなんだ。誰にも渡したくない。
 だけど、現状で里美の親友である守野の信頼を取り戻すのは難しいので、彩奈から情報を聞き出そうと必死だった。

 俺達が高校を卒業しても、守野の言動を見張る様に後輩の高松にお願いしたら、何とこの二人、付き合い始めやがった。
 でも里美情報を手に入れる為、嫉妬を封印だ。
 高松は進路を地元松山にしたせいか、守野も進路を同じにしたとかで、一年後には同じ大学に入学したと聞いた。
 そして何と、里美も同じ大学にいると聞き、居ても立っても居られなくなり、三年になってすぐ、一度松山に帰省した。

 一、二年の時に真面目に授業を受けていたおかげで単位は大丈夫だ。
 俺は再び自分の進路を悔やんだ。
 何故松山にしなかったのか。松山だったら、里美と再会出来たかも知れなかったのに。
 でも、高松から衝撃的な言葉を聞いて、俺はどれだけ里美を傷付けていたかを思い知った。

 里美は、俺がいないから松山に戻って来た、と……。
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