心の鍵はここにある

 春奈ちゃんが腕時計で時間を確認すると、始業時間が迫っていた。
 私達は、非常階段からフロアに戻り、春奈ちゃんは経理部へ、私は総務部の自席へと戻った。
 今日は金曜日。昨日迄に各部署から補充すべき物のデータがメールで送られてきており、私はそれを午前中に集計した。
 午後からは月曜日に備品の補充を行う準備の為倉庫へ向かう。
 棚の上から順番に在庫をチェックしながら、各階に補充すべき物をリストを見ながら箱詰めしていく。
 今日は一日、この作業で潰れるだろう。

 いつも思うが、この倉庫での作業は、事務服よりもジャージの方が適任だ。
 藤岡主任に相談してみようかと真剣に考える。
 がしかし、この倉庫から一歩でも外に出ると、完全に浮いてしまう。
 倉庫に人の出入りがないなら、ジャージで作業したいものだ。
 そんな事を考えながら、棚から必要な物を取り、箱詰めしていた。
 立ったり中腰になったりを繰り返していると、立ちくらみが起こるので、倉庫に置いている机を組み立てて、そこに棚から出した品物を並べ、最後にリストを見ながら箱詰めする。
 段ボール箱に各部署の宛名ラベルを貼り付けて、台車に各階毎にその段ボール箱を積み上げて、今日の作業は終了だ。

 午後からこの作業に没頭するので、倉庫の中は一定の時間、足の踏み場もなくなる位に散乱する。
 その為よっぽどの緊急事態が発生しないかぎり総務以外の人間は出入り禁止にして貰っている。
 それに作業中、人が入って中断してしまうと作業効率が落ちてしまうのと、万が一の時の品物紛失を防ぐ為にも、緊急時以外の入室は禁止なのだ。
 だから電話も、よっぽどの緊急時以外は取り次がれずに折り返しの電話になる。

 社内の人は毎週金曜日は作業日である事を知っている為、急ぎではない用事の時は、月曜日の備品補充で各部署を回る時に直接私に言ってくる。
 大概は、私個人に用事がある訳ではなく、『総務部』の私に用事があるから、最悪私じゃなくても問題はない。
 作業に没頭していると、就業時間を終えるチャイムがスピーカーから聞こえた。
 台車総数四つに、段ボール箱が各三つ乗っている。
 一つの段ボールに入り切らない荷物を分けて乗せたりしているから、大きさはバラバラだ。

 箱に部署名を記入して、月曜日に各部署へ配布の準備が完了したので総務の部屋へ戻った。
 倉庫の鍵を元の位置に戻し、自分の席へ向かう。
 机の上にもメモ等なく、やはり私が離席時は部内で色々と処理して貰っていたみたいだ。
 就業時間が終了している事もあり、部内も帰宅した人がちらほら見受けられる。
 私も机を片付けて、帰宅の準備をする。
 帰宅の挨拶をして更衣室へ向かうと、丁度春奈ちゃんと出くわした。
 今朝と言い今と言い、どうやらタイミングが合うらしい。

「あ、里美さん、お疲れ様です。今お帰りですか?」

「春奈ちゃん、お疲れ様。うん、もう帰るよ。春奈ちゃんは今からデート?」

 春奈ちゃんは既に事務服から私服に着替えている。
 さり気なく目元のメイクが変わっていて気合いが入っている。
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