心の鍵はここにある
ランチミーティング

 朝一番で、各部に配荷を届けながら、各階の電球やトイレの備品等をチェックして行く。
 部署のメール便を配荷中に回収しながら業務をこなし、総務に戻ったのが十時半。
 回収したメール便を仕訳して、外部への郵便物が混じっていないかを確認する。
 社内メール便は、明日の朝各部に配送なので、それまでに仕訳すれば良い。
 外部への郵便物は、近くにある郵便局の回収時間がお昼なので、出来るだけ午前中に郵便局へ行く段取りをする。
 全ての段取りを整えると、十一時を回ってしまっている。
 私は急いで郵便局へ行く準備をし、離席しようと立ち上がった瞬間、藤岡主任に声を掛けられた。

「郵便局の後、ランチミーティング行くから。
 一度こっちに戻ると暑いし、郵便局出る前に僕の携帯鳴らしてくれる?
 店、その時に言うから直接向かって」

 藤岡主任は、地方営業所の機材購入に関する稟議書を精査しながら、購入予定メーカーのカタログを見ている。
 私は返事をして、郵便局へ向かった。
 ここ数年の異常気象で、会社から一歩外に出ただけで、まとわりつく様な暑さと湿気で気持ち悪くなる。
 極力外には出たくないのだけれど、これも仕事だから仕方ない。
 私は日傘を差して影を作り、足早に郵便局へと向かって行く。
 郵便局に到着するまでにかく汗が、ベタついて気持ち悪い。
 そして、外気と室内の気温差で汗が冷えるので、しばらくすると寒くなるし身体には良くない。
 今日の郵便物は書留扱いの物がある為、どうしても窓口で手続きをしなければならず、一般の方に混じって順番を待った。
 手続きが終わり、時計を見ると、十一時四十分を回っている。
 私は携帯から藤岡主任にメールを送った。すると、すぐに返信が届く。

『お疲れ様。郵便局裏にある山川で待ってて』

 山川とは、手打ちうどんが美味しいと評判のお店だ。
 うどんが本場の香川県出身のご主人のお店と聞いた事があり、思わず顔が緩んだ。
 慣れ親しんだ四国の味を思うと、暑くても笑みが浮かぶ。
 私は郵便局を出て、山川へ向かう。

 八月の陽射しはジリジリと地面を、ビルを、街全体を照り付ける。
 外気温と建物の中の温度差にやられそうになるので、しっかりとお昼ご飯を食べて体力を回復させなければ。
 私は極力直射日光が当たらない様に、日傘で影を作りながらお店へと歩を進めた。
 週末の帰省が高松だったら、製麺所の美味しいうどんを食べる事が出来たのに、今回は松山だからそれは叶わないと思っていただけに、これは素直に嬉しい。
 季節的に、喉ごしの良い麺を食べる楽しみが出来て、外気が高くても足取りは軽い。
 山川のお店は引き戸で暖簾をくぐると、既にランチタイムのビジネスマンでごった返している。
 この店も、香川同様セルフスタイルのお店らしい。
 座席を二つ確保してからグラスに水を注ぎ、何を食べようかメニューに目を凝らしてみる。
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