心の鍵はここにある
意識改革

 先輩が帰宅した後、固まって動けなかった私は、先輩が帰宅したとの報告のメッセージが届くまで呆然としていた。

 ……キス、したんだ。私、越智先輩とキスしたんだ。
 夢じゃないんだ。本当に想いが通じ合ったんだ。
 嬉しい反面、まだ信じられない思いだった。
 まだ、あの呪縛から完全に解けた訳ではないけれど、先輩が言ってくれた一番欲しかった『好きだ』と言う告白は、私のがんじがらめになった心を少しずつ解きほぐしていく。
 食器類やゴミを片付けて入浴して、ベッドに横になってからも、キスされた感触や、抱き締められた時の事を思い出しては一人赤面してなかなか寝付けなかった。

 翌日、仕事終わりに春奈ちゃんとの約束で、会社の駅近くにあるファミレスへと向かった。
 昨日までの事を掻い摘んで春奈ちゃんに話をすると、春奈ちゃんも喜んでくれた。
 ゆりさんの件については、もし何かあれば力になります! と、何とも頼もしい言葉を貰えた。一体どちらが年上なのか、わからなくなる。
 洋服選びの相談も、こんなのが似合いそう、あんなのはどうだろうと、スマホを検索しながら今まで私が試した事のない洋服を次から次へと見せられる。

「まだ二十代なんですよ、せっかくですから色々と試しましょうよ」

 そう言って、春奈ちゃんがよく自身でも買いに行くお店を教えて貰った。
 値段も手頃なお店だと言う事で、来週末にでも見に行ってみる事にした。
 やっぱり買い物に行くなら、じっくりと見たい。私の普段使いの服や小物は、シンプルな無地の物ばかりなので、買い足すなら柄物がいいと、アドバイスまでされた。確かにその方が合わせやすい。

「里美さんが日頃通勤で着てる服も、流行り廃りがない無難なデザインだから、柄物の服は流行りの物にするといいですよ」

 春奈ちゃんに言われ、素直にメモを取る。
 メイクも一度、化粧品売り場にいる美容部員さんに、メイクをして貰って写真を撮って貰うと覚えやすいと教わった。自分が愛用しているブランドは特にないので、スキンケアで自分の肌と相性のいい物から出ているラインで揃えて見ては? とアドバイスを貰う。
 私が日頃愛用しているスキンケアは、ドラッグストアに置いてある安い商品なだけに、美容部員さんにメイクをして貰うなんてとんでもないと思っていた。

「でも相手はプロですよ? お手入れ方法を教えて貰うにはもってこいですよ。
 里美さんに似合うメイクの方法や、カラーも見て貰えるし。
 そこまで気にするなら、口紅の1本でも買って帰ればいいんですよ」

 春奈ちゃんは、あっけらかんと笑いながらそう言うものの、今までの地味子な私には、そこまでの勇気が出ない。

「じゃあ、大きなドラッグストアなら、化粧品売場の店員さんもそれなりにメイクの方法教えてくれますよ?
 私の友達、ドラッグストアに居るんですけど、某メーカーのメイクアップ試験に合格してる子居ますから」
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