心の鍵はここにある

 男の人と付き合った事すらなくて免疫ないから、何だか色々と恥ずかしくて……」

 私の弱気発言も、春奈ちゃんは優しく包んでくれる。
 春奈ちゃんと居ると、まるで柔らかな陽だまりの中にいるような気持ちになる。
 同僚にも上司にも恵まれて、私は幸せ者だ。

「里美さんのペースでいいんですよ。
 周りがとやかく何か言う事ではないので、外野は無視で大丈夫ですから。里美さんの、越智さんへの気持ちも、越智さんの里美さんへの気持ちも、お互いが通わせているんだから。
 今の越智さんは、里美さんの変化を見落とす様な事はないと思います。
 越智さんは里美さんの事が好きでたまらないんだって、拓馬くんが言ってましたから。素直になって越智さんに全てを晒し出すくらいの気持ちでいるといいですよ」

 春奈ちゃんの言葉は胸に響く。

「里美さん、週末は松山なんですよね。イメチェン、いつします?」

 そうだった、土曜の朝一で松山に帰るんだ。
 向こうでゆっくりする時間があるなら、さつきに買い物に付き合って貰えるけれど、先輩も一緒だし、多分そんな時間はないだろう。

「んー、松山でも多分バタバタだろうし、週明けてからかな……。
 美容院も、ゆっくり行きたいし」

「今週中の仕事終わりって、予定はどうですか?
 ドラッグストアは友達の都合を聞いてからになりますけど、美容院なら私の従姉が勤めてるヘアサロンでカットモデルやカラーのモデルさん募集してるんですよ。
 モデルさんだから料金も発生しないし、私もカットモデルするんですよ。良かったら一緒に行きませんか?」

 春奈ちゃんはそう言って、従姉さんが勤務するヘアサロンの名刺を渡してくれた。

「丁度ここからも近い場所だし、私も木曜日にカットモデルするから一緒に行きましょう?」

 半ば流される様にカットモデルをする事になり、春奈ちゃんは早速従姉さんに連絡を入れ、予約を取った。



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