モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
十九時になり、いよいよ占いサロンがオープンした。
気合十分で、一時間も前から食堂で待機していたが――誰もこない。
「マルトさんどうしよう!? 宣伝が足りなかったのかしら?」
サロンのみならず、食堂も閑散としている。スタートダッシュどころか、まだスタートにも立てていないこの状況に、私は焦りを隠せずにいた。
「フィーナ、落ち着いて。まだ始まったばかりだろう」
「でも、こういうのって最初が肝心っていうでしょう? 本当に大丈夫かしら。せっかくマルトさんも手伝ってくれたのに」
「大丈夫。焦ってもいいことはないよ。ゆっくりでも成果を出せればいいんだから。ほら、お客さんがくるかもしれないし、フィーナはサロンに戻りなさい」
「……はーい」
マルトさんに宥められ、私は肩を落としたままサロンへ戻った。
開かない扉を見つめながら、ひたすら椅子に座って誰かがきてくるのを待つ。しかし、一時間以上経ってもひとがくる気配はない。
今日はもう誰もこないだろうな、とあきらめモードになっていると、トントンと扉をノックする音が聞こえた。
「はっ、はいっ!?」
驚いて声がひっくり返る。
「失礼するわ」
声と共にガチャリと扉が開くと、そこにいたのは同級生のアナベルだった。
アナベルというと、小説内ではエミリーをいじめる〝悪役令嬢〟として登場するいじわるな侯爵令嬢だ。金髪のツインテールが特徴で、いつも赤髪と青髪の取り巻きを両側にはべらせ、自信満々な顔で校内を歩いている。その姿はまるで歩く信号機みたいだと噂されてたっけ……。アナベルが聞いたら怒りそうな噂だ。
そんなアルベリク名物信号機を見られると思いきや、取り巻きの姿が見当たらない。どうやら、アナベルはひとりでここへきたようだ。
アナベルは品定めするようにサロン内を見渡すと、私の正面にある椅子にどかっと座り脚を組んだ。
サロンのお客様第一号が悪役令嬢のアナベルなんて、まさかの展開だ。
「よ、ようこそ。フィーナの占いサロンへ。ここではあなたの悩みを、私が一緒に解決します!」
「……あなたがフィーナ・メレスね?」
「え、ええ。そうですけど」
「エミリーの金魚のフンをしていたから、あなたのことは覚えてるわ。いつの間にかやめたみたいだけど」
……金魚のフン。ムッとする言い方だが、実際そうだったしそう言われても仕方ない。
「フィーナ、停学処分になったんですってね。そんな生徒がなにか始めるみたいって聞いて、興味本位できてみたの」
「あなたはアナベル様ですよね。いつも一緒にいるおふたりはいないのですか?」
「いないわ。悩みを相談するのに、ひとを連れてくるわけないでしょう?」
興味本位と言っていたくせに、ちゃんとサロンの内容を把握して、尚且つ相談する気満々のようだ。
「それもそうですね。でも、アナベル様がきてくれて助かりました。全然ひとがこなくて途方に暮れてたので」
「当たり前じゃない。停学処分を受けた人間に悩みを相談するなんて、なんのメリットもなさそうだもの」
「た、たしかに……」
「私のように、好奇心旺盛で自分に余裕のある人間しかこないでしょうね。おーほっほっほ!」
さすが悪役令嬢と言いたくなるほどの高笑いに、私は苦笑する。でも、笑い方はともかくアナベルの言うことはごもっともだった。
気合十分で、一時間も前から食堂で待機していたが――誰もこない。
「マルトさんどうしよう!? 宣伝が足りなかったのかしら?」
サロンのみならず、食堂も閑散としている。スタートダッシュどころか、まだスタートにも立てていないこの状況に、私は焦りを隠せずにいた。
「フィーナ、落ち着いて。まだ始まったばかりだろう」
「でも、こういうのって最初が肝心っていうでしょう? 本当に大丈夫かしら。せっかくマルトさんも手伝ってくれたのに」
「大丈夫。焦ってもいいことはないよ。ゆっくりでも成果を出せればいいんだから。ほら、お客さんがくるかもしれないし、フィーナはサロンに戻りなさい」
「……はーい」
マルトさんに宥められ、私は肩を落としたままサロンへ戻った。
開かない扉を見つめながら、ひたすら椅子に座って誰かがきてくるのを待つ。しかし、一時間以上経ってもひとがくる気配はない。
今日はもう誰もこないだろうな、とあきらめモードになっていると、トントンと扉をノックする音が聞こえた。
「はっ、はいっ!?」
驚いて声がひっくり返る。
「失礼するわ」
声と共にガチャリと扉が開くと、そこにいたのは同級生のアナベルだった。
アナベルというと、小説内ではエミリーをいじめる〝悪役令嬢〟として登場するいじわるな侯爵令嬢だ。金髪のツインテールが特徴で、いつも赤髪と青髪の取り巻きを両側にはべらせ、自信満々な顔で校内を歩いている。その姿はまるで歩く信号機みたいだと噂されてたっけ……。アナベルが聞いたら怒りそうな噂だ。
そんなアルベリク名物信号機を見られると思いきや、取り巻きの姿が見当たらない。どうやら、アナベルはひとりでここへきたようだ。
アナベルは品定めするようにサロン内を見渡すと、私の正面にある椅子にどかっと座り脚を組んだ。
サロンのお客様第一号が悪役令嬢のアナベルなんて、まさかの展開だ。
「よ、ようこそ。フィーナの占いサロンへ。ここではあなたの悩みを、私が一緒に解決します!」
「……あなたがフィーナ・メレスね?」
「え、ええ。そうですけど」
「エミリーの金魚のフンをしていたから、あなたのことは覚えてるわ。いつの間にかやめたみたいだけど」
……金魚のフン。ムッとする言い方だが、実際そうだったしそう言われても仕方ない。
「フィーナ、停学処分になったんですってね。そんな生徒がなにか始めるみたいって聞いて、興味本位できてみたの」
「あなたはアナベル様ですよね。いつも一緒にいるおふたりはいないのですか?」
「いないわ。悩みを相談するのに、ひとを連れてくるわけないでしょう?」
興味本位と言っていたくせに、ちゃんとサロンの内容を把握して、尚且つ相談する気満々のようだ。
「それもそうですね。でも、アナベル様がきてくれて助かりました。全然ひとがこなくて途方に暮れてたので」
「当たり前じゃない。停学処分を受けた人間に悩みを相談するなんて、なんのメリットもなさそうだもの」
「た、たしかに……」
「私のように、好奇心旺盛で自分に余裕のある人間しかこないでしょうね。おーほっほっほ!」
さすが悪役令嬢と言いたくなるほどの高笑いに、私は苦笑する。でも、笑い方はともかくアナベルの言うことはごもっともだった。