モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
私はレジスの希望を叶えるために、二日間マルトさんとキッチンに籠って、購買コーナーの新商品開発に励んだ。
 パンとサンドイッチがメインだったので、私はおにぎりを作ることを考えた。おにぎりなら手軽に持ち運べるし、お米を食べたいと思ったときにちょうどいい。材料費も値段も安く済ませることができる。
 ただ購買コーナーに出すと、炊き立てのご飯を使ってもそのうち冷めてしまう。冷めても美味しいおにぎりを作らなければ意味はない。
 具は定番の鮭、ツナマヨと、甘辛に仕上げた鶏のから揚げの三種類にしてみた。海苔が食堂になかったのでマルトさんに相談すると、奇跡的に王宮のキッチンで外国から輸入した海苔がたくさん見つかり、それをもらえることになった。
 ルミエル国ではそこまで海苔を食べる文化はないので、たまに見かけるおにぎりも炊き込みご飯やまぜご飯で作られていることが多い。でも私は、前世で馴染みのあるあの海苔が巻かれたおにぎりだを作りたいのだ。おにぎりにすればこの国もひとだって海苔が食べやすい――はず。
 マルトさんは興味深そうに、私がおにぎりを作るのを眺めていた。
 パリパリに焼いた海苔を塩をつけて三角に握ったご飯に巻きつければ、おにぎりの完成だ。
 私は敢えて、冷めたおにぎりをマルトさんに食べてもらうことにした。

「……美味しい! なるほど。こういうおにぎりもあるんだね。鮭の塩加減もいい感じだよ。こっちのツナマヨはみんなから好かれそうな味だし、唐揚げは……うん。男子生徒から人気が出そうだね。パリッとした海苔が柔らかいご飯と具材のアクセントになっていて、これだと食べやすいよ」

 マルトさんからオッケーをもらい、私が作ったおにぎりは朝、夕合わせて全種類二十個ずつの、一日六十個限定販売で売られることになった。
 前回同様宣伝ポスターを作り、月曜日に販売されることを寮生に事前告知しておく。
 準備万端で迎えた月曜日。早起きをして朝の分のおにぎりを三十個握った。しかし気合いを入れて早起きをし過ぎたせいか、握り終わったあとにどっと眠気が私を襲った。
販売開始前に少し仮眠をとらせてもらうため部屋に戻ると――起きた時には、もう十時を過ぎていた。

 ――やってしまった。私はダッシュで食堂に向かうと、購買コーナーにおにぎりはひとつも残っていなかった。

「マルトさん、ごめんなさい! 私、あのまま今までずっと寝ちゃって……」
「そんなことだろうと思ったよ。おにぎりなら、朝イチですぐに全部売り切れたよ」
「えぇ!? そんなにすぐ!? 宣伝の効果があったのかしら」
「そうじゃなくて……あのイケメンくんが買い占めたんだよ」

 そう聞いて、私は目が点になった。

「レジスが!? 三十個全部!?」
「そうだよ。涼しい顔をして……両手におにぎり抱えて部屋に戻っていったよ! あはは!」

 マルトさんはその光景を思い出したのか、言いながら笑いが堪えきれなくなっている。

「どうして止めないの!? レジスはお金持ちのご令息じゃないのよ!? 三十個買うなんて、無理をしたに決まってるわ!」
「あたしもそう思って止めたけど、本人が絶対に全部買うって言って聞かなかったんだよ」
「レジス……なにを考えているのよ」

 私は頭を抱えた。たしかにあのとき『買い占める』って言ってたけど、本当に買い占めるなんて……。

 その日二回目のおにぎり販売時間にも、レジスはふらっと食堂に現れた。
 そしてまたレジスがおにぎりを全部買うと言ってきたので、私は必死にレジスを止めた。既に三十個買っていて、それを食べきるのもたいへんなのに、さらに三十個買わせるわけにはいかない。


「どうしてだめなんだフィーナ!」
「だめったらだめ! 全部食べきれないのに買うなんてよくないわ!」

 食堂に私とレジスが口論する声が響き渡る。

「食べきる! 俺がフィーナが作ったものを残すとでも? 一日では無理だが、数日に分けて……」
「おにぎりが傷んじゃうわ! 買ったものは今日中に食べてもらわないと困るの!」
「だったら、六十個全部食べ――」
「そんなこと絶対無理! 私、食べ物を粗末にするひとは好きじゃない!」

 ああ言えばこう言うレジスにぴしゃりと言い放つと、レジスはやっとあきらめてくれたのか、肩を落として去って行った。
 のちに、多数の寮生が食堂でひとり大量のおにぎりを食べるレジスの姿を目撃したという。このことは次の日から〝レジスおにぎり買い占め騒動〟と名付けられ、アルベリクで数日間話題となり、レジスは時のひととなった――。

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