モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
「〝君の作る料理を毎日食べたい〟って、あたしが旦那に言われたのと同じ言葉だ」
「マ、マルトさん! 聞いてたの!?」

 キッチンに戻るなり、マルトさんはまたあのにやついた顔を私に向けた。

「勝手に聞こえてきただけだよ。あのイケメンくんがあんな甘いセリフ言うなんて驚きだ。まさに、好きな子にだけ甘いタイプだね」
「好きとかじゃなくて……私はレジスに懐かれてるっていうか、そう、懐かれてるだけよ」
「懐かれてる? あはは! フィーナ、おもしろいことを言うね」

 大笑いしながら、マルトさんは片付けられたまな板取り出すと、キッチンの上に置いた。

「あれ? マルトさん、今からなにか作るの?」
「いいや。作るのはフィーナだよ」
「私!? オムライス作りならもう終わったじゃない! ……まさか」
「勘付いたようだね。あそこまで言われて作らないなんて、女がすたるってもんだよ」

 まさかと思ったら、そのまさかだった。
 マルトさんは私に、購買コーナーで売る用の料理を作ることを命じてきたのだ。

「明日は金曜日よ!? べつに今日じゃなくたって……」
「停学中なんだから曜日は関係ないだろう。あたしは今週の土日はちょっと忙しくてね。来週の月曜から出せるようにするには、今日と明日で仕上げるしかないんだよ」

 そんな急ぐ必要があるのか疑問だったが、マルトさんにその後言われた「食べたいと思ってくれたひとが、食べたいと思っているうちに一秒でも早く希望の料理を提供するのが料理人だ!」という言葉に、私は料理人でもないのに妙に納得してしまった。
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