モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
「でも、この前その子が言ってたんだ。〝王子様みたいなひとが好き〟だって。多分、明るく人気者で、社交的なマティアスみたいなやつが好みなんだと思う。実際楽しそうに話してるのを見た。……俺とは正反対だ。俺には王子らしさもないし、どうしたらいいかわからない」

 それって、もしかしてもしかしなくても――私のことじゃないか。
 以前サロンで相談されたときと同じようなことを思った。が、今回はそのときとはちょっとちがう。
 だって……今のレジスは、獣化した私でなく、私本人のことを言っているんだもの。
 散々マルトさんにも、レジスは私に気があると冷やかされていたけれど、本当にそうだったとわかるとどう反応したらいいのかわからない。
 レジスは私のことを「猫みたいだ」と言っていた。だから女嫌いのレジスも、私には懐いてくれていたというか、勝手に親近感を抱かれていたんだと思っていた。レジスは猫が好きだから。
 ちゃんとひとりの女性として見てくれていたなんて……。だから時々、嫉妬のような感情を私にぶつけてきたり、顔が火照るような甘い言葉を不意に言ってきたりしたのか。
 もしかして? とは思っていても、今の今まで確証なんてなかったから、私もうぬぼれることなんてなかった。だって、こんなにかっこよくて、陰ではモテモテで、でも女嫌いで有名なレジスが、私みたいな目立たない貧乏令嬢を好きになるなんて思わないじゃない。……というか、私っていつも、レジスに自分の相談をされてる気がする。
 
「彼女と話すために話題を作ることに必死で、シピのことを想い人と見立てて相談するなんて情けない話だ。お前は猫なのにな。だから俺の本心を彼女は知らなくて当然なんだが……それでも、俺なりに一生懸命アプローチしてるつもりだった。でも、まったく興味を持たれていないのだろうか……」

 そう言うと、レジスは悲しげな瞳で食べかけのおにぎりを見つめた。哀愁漂うレジスと具がなくなって米と海苔だけが残っているおにぎりが妙にマッチしている。
ということは、レジスがおにぎりを毎回かかさず買ってくれるのも、この前の買い占めのことも、全部私のことを想っての行動ってこと……?
 悩みなんてなさそうなクールなレジスを、こうまでさせた原因が自分だなんて、未だに信じられない。
 マティアスのことだって、あれほどただの憧れと言ったのに、レジスには伝わっていないようだ。今すぐもう一度訂正したいが、この姿なのできちんと言葉にすることができない。
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