モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
「にゃ、にゃー! にゃー!」

 伝わらないとわかりながらも、必死に「そんなことないわ!」と鳴く。
 珍しく鳴きやまない私に驚いたのか、レジスは残っていたおにぎりを一気に平らげると、両手で私を抱き上げた。

「シピ、俺のことを慰めてくれているのか?」
「にゃっ! にゃあ!」
「ふっ。ありがとう。お前のおかげでまたがんばろうと思えた。それに……俺の好きなひとは、お前に似ていて――とてもかわいいんだ」

 至近距離にあるレジスの顔。その瞬間、風がレジスの前髪を揺らした。
 露わになった青色の瞳は、私を映したまま愛しそうに細められる。
 ――ドクン、と、私の心臓が大きく脈打った。
 それと同時に、私は自分の気持ちに気づいたのだ。

 私も、本当はレジスにずっと惹かれていた。初めてここで会話をしたあの日から、ずっと。
 
「にゃあっ!」
「シピ!?」

 恋心を自覚した途端、鼻がぶつかりそうなほど近くにいるレジスに見つめられるのが恥ずかしくてたまらなくなる。
 私はレジスの手の中からぴょんっと身軽にすり抜けると、獣化のタイムリミットはまだ充分にあるにも関わらず、そのままレジスの前から逃亡した。私が急に姿を消すのはよくあることなので、レジスも慣れているのか追ってくることはない。
 ひとり倉庫に戻り、獣化を解く。素早く衣服だけ身に纏うと、その場に膝を抱えて座り込んだ。
 ――まだ心臓がドキドキしてるし、体が熱い。
 さっきのレジスの表情や言葉を思い出すだけで、胸がきゅっとなる。
これからどんな顔をしてレジスに会えばいいんだろう。レジスは私に今の話を聞かれているなんて知らないから、いつも通りにしないといけないのはわかっているけれど。
 私がこの学園で誰かに恋をするなんて、エミリーの付き人をやらされていたときには考えられなかった。
 その後、私の頭の中はレジスでいっぱいで、倉庫の作業がまったくはかどらなかったことはいうまでもない。
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