モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
「それより、三人とも今日はいつもに増してとても素敵ですね。ドレス、それぞれ色がちがって、よく似合っています」

 私が言うと、さっきまでぷんすかと怒っていた三人は、急に褒められて照れくさそうにしている。
 特にアナベルは、気合いの入りようがほかのふたりとはちがう。パープルを基調としたマーメイドドレスは程よく露出していてセクシーさもありながら、アナベルのスタイルのよさを上品に見せている。見慣れたツインテール姿も今回は封印したのか、結ばずに下ろして片側に流している。いつもと雰囲気がまるでちがって、まるで別人のように見えた。

「……こんなアナベル様のお姿を見たら、マティアス様もイチコロでしょうね」
「んなっ!? なに言ってるのよフィーナったら!」

 心の中で思ったことが、素直に声に出ていた。
 アナベル様は恥ずかしそうに両手に頬をあてる。照れ屋でちょっぴりツンデレな性格は相変わらずだ。

「フィーナの言う通りですわ! アナベル様」
「今日はマティアス様と最高のクリスマスを過ごせるように、わたくしたちが精一杯アシストさせていただきますわ!」
「もう、ふたりまでそんなこと言って……! あなたたちも意中のひとがいたら、私なんて気にせずにアピールしなさいよ! いいわね!?」

 「はいっ!」と声を揃えてアナベルに元気よく返事をするカロルとリュシーだが、ふたりを見ていたらわかる。ふたりは今、どんな男性よりもアナベルをいちばん慕っているということに。アナベルが名家の侯爵令嬢だからとかそういうこと関係なしに、ひととして尊敬し、ついて行きたいと思っているんだろう。
 たしかにアナベルは女性として魅力があるし、取り巻きのことも考えられる優しい女性だ。こうして近くで見ていると、未だに小説内で彼女の扱いがひどかったことが信じられない。

「さあ、早く行かないと、マティアス様をほかの生徒にとられてしまいますよ。私のことは気にしないで、パーティーに行ってください。お土産話、楽しみに待ってますから」
「……わかったわ。停学が解除されたら、次のパーティーこそ一緒に行きましょう!」
「ええ。楽しみにしてます」

 果たして〝次〟が私にあるのかわからないが、アナベルが好意で言ってくれた言葉を無下にはできない。私は笑顔で返事をして、三人が見えなくなるまで後ろ姿を眺めていた。
 ――これで大体の寮生は、もう会場に向かったようね。

「フィーナ」

 そう思い、一度寮の中へ戻ろうとすると、また後ろから声をかけられる。しかしそれは、振り返りたいとは決して思えない声だった。

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