モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
夢に描いていたとは程遠い学園生活に、私はとんでもないストレスを抱えていた。
マティアスに媚びを売るエミリーの姿を見ていると目を覆いたくなるし、見た目だけの腹黒女に騙されているマティアスを見ていると、勝手に気持ちがサーっと冷えていくのを感じる。
これ以上、マティアスにも幻滅したくない。彼のことは前世から憧れを抱いたまま、綺麗な思い出として覚えておきたい。
――ふたりと深く関わるのをやめよう。
自慢話ばかりしてくるエミリーにも嫌気がさすし、毎日こき使われ私はへとへと。うまい話しには裏があると聞くが、今回のことで身をもって実感した。
もう全部にうんざりし、私は夏休みの終わりにエミリーの取り巻きをやめることを決めた。
小説では、エミリーのことが大好きだったフィーナだが、私はこの女を好きになれそうもない。
取り巻きをやめることを決意してから、私はすぐに行動に移した。
ひとりで好き勝手し、エミリーの言うことには耳を塞ぎ続けた。マティアスとも、エミリーといなければほとんど関わることはない。
小説での役割だったエミリーの友人役は放棄して、私はこの世界では好きに過ごそう。変に目立たず、ひとりでやりたいことをする。トラブルのない平穏な日々を送るために。
――そうして暮らしていた結果がこれだ。
付き人という役目を私が放棄したことを、しびれを切らしたエミリーが両親に告げ口したのだろう。
正直この学園に未練はないが、両親があまりにも必死なので、できることはしなければならない。もちろん、私にも勝手に約束を破った責任がある。
退学になったとしても、せめて後期の学費は絶対に免除にしてもらえるようがんばろう。寮費だけなら、なんとか払えることを信じて……。最悪、私が働いて返せばいい。
とにかく明日から倉庫修復の作業に取り掛かり、寮を盛り上げる企画を考えないと!
「あらフィーナ。どうしたの? そっちは教室とは反対の方向よ? もうすぐ授業が始まってしまうけど」
足早に寮へと戻る私の前に、今いちばん顔を見たくない相手が現れた。エミリーだ。
にやにやと薄ら笑いを浮かべながら、嫌みったらしい言葉までかけてくる。無視して通り過ぎてしまいたいが、エミリーが道を塞ぐように私の前に立ちはだかっているせいで、足を止めざるを得ない。
「ああ。そういえば、停学処分になったのよね。昨日、お父様から学園に話をつけたということを聞いたわ。ごめんね。お父様とお母様が勝手に――。まさかこんなことになるなんて、私としても残念だわ。フィーナがいない学園なんて、つまらないもの」
わざとらしい態度にイラッとする。内心ざまぁと思っているくせに。そもそもエミリーが両親にこうするよう頼んだにちがいないわ。
「心配無用です。私がエミリー様に嫌な思いをさせていたならごめんなさい。信頼を勝ち取れるよう、これからがんばりますわ」
上っ面の言葉には、こっちも心にもない言葉で返してやる。
私は笑顔でそう言うと、エミリーを押しのけてそのままずかずかと歩いて行った。お父様とお母様には悪いけど、エミリーのご機嫌とりなんてまっぴらごめんよ。
しばらくエミリーの顔を拝まなくていいと思うと、せいせいするわ!
校門を出る前に後ろを振り返り、私は目の前にそびえ立つ学園に向かってあっかんべーをした。
せっかくだから、停学生活を満喫しちゃおう。モブはモブなりに、自分の人生を思いっきり楽しんでやるわ。