モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
 見ないんじゃない。見れないのだ。
 レジスの顔を見てしまうと、泣いてしまいそうで、今よりもっと感情がぐちゃぐちゃになりそうで、怖い。
 
 でも――もしここで、私が勇気を出してレジスに獣化のことを聞いてみれば、なにか変わる? レジスのことを信じられる?

 私はできることならレジスのことを信じたいと、心のどこかで強く願っていた。エミリーの言ったことが嘘なら、レジスはまだシピの正体を知らないはず。

「レジス……最近、シピちゃんには会えた?」
「え? いや、会えていないが……それがどうかしたのか」

 私は望みを賭けながら、勇気を出してレジスの目を見てはっきりと告げる。

「そうよね。だって、あの白猫は私だものね」
「……フィーナ?」
「レジスは、知っていたんでしょう?」

 なんのことだ、と否定してほしかった。それか、驚きで固まるお茶目な姿をここで見せてほしかった。

 私の願いも虚しく、青い瞳はまるで意表をつかれたように揺れる。その瞬間を、私は見逃さなかった。

「やっぱり知っていたのね」
「それは……」

 レジスの反応を見れば、シピの正体を知っていたかどうかなんて明白だ。

 レジスはずっと、わかってて私に接してたんだ。
 胸の奥で熱くなりかけたものが、凍り付いたように冷たくなっていく。

 私は所詮この世界では物語のモブキャラ。ヒロインを差し置いて幸せになろうなんて、最初からあり得ない話だったんだ。

「隠してた私も悪かったし、獣化した姿でレジスに近づいたことは謝るわ。……でも、ずいぶんひどいことをするのね。私のこと、馬鹿な女だと思ったでしょう? レジスにバレているとも知らないで、勝手に自惚れて……自分のしてきたことが、恥ずかしくてたまらないわ」
「フィーナ、なにを言ってるんだ。たしかにフィーナがシピだということは、エミリーに聞いて知っていた。でも俺は、お前を馬鹿になんてしていない」

 切羽詰まったレジスの声。泣きたいのは私なのに、どうしてレジスがそんなに苦しそうな顔をするのよ。

「……本当にエミリーから聞いていたのね。これで、私も踏ん切りがついたわ」
「待てフィーナ、話を聞いてくれ」
「お願いだからこれ以上、私を傷つけないで。もう十分、私の心はぼろぼろよ。――退学は決まったも同然だし、もうこれで会うこともなくなるわ」
「退学? なんの話だ」

 ここへきて、まだシラを切るつもりなのか。レジスがなにを考えているのかわからない。

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