モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
 学年末パーティーまで残り三日となったので、私は寮の自室で荷物をまとめていた。
 サロンは体調不良を理由に、少し前に閉めてしまった。みんなが学園に行っている時間帯に、マルトさんの手伝いはたまにやっていたが、前ほど食堂に顔を出すこともなくなっていた。
 私がいなくとも、マルトさんの料理だけで、食堂は変わらず賑やかなままで安心する。

 あぁ……マルトさんの料理が食べられなくなるの、すごく悲しいな。この食堂にだけは、学園をやめても足を運びたいくらいだ。

 レジスとは――食堂で言い合いになってから、一度も会っていない。

 何度か私を訪ねにきてくれたが、全部突っぱねてしまった。顔を見ると、許してしまいそうだったから……。
 レジスのことは忘れよう。そう思っても、ふとしたときにレジスのことを考えてしまう自分がいた。

 髪飾りも結局捨てることなんてできず、引き出しに大事にしまわれたまま。……自分から突き放しておいて、未練があるなんて情けない。

 レジスに会えなくなったのは、ほかにも理由があった。
 最近、レジスは学園をずっと休んでいるらしく、寮にもいないというのだ。
 マルトさんにこの話を聞いたときは驚いた。マルトさんも、私なら理由を知っていると思っていたようだ。残念ながら、私はレジスからなにも聞いていない。そもそも私がレジスと話すことを拒否していたので当然なのだけど……。
 〝後悔しないように〟という理事長の言葉を聞いて、私はこのままレジスと別れていいのかずっと考えていた。
 暇つぶしに自分で自分を占ってみたら、カードすら私に〝今のままではいけない〟と言ってくる。
 だから私は、今度レジスが訪ねてきたら会おうと決めていた。でも、いくら待ってもレジスがやって来ることはなく――気づいたころには、レジスはどこかに行ってしまった。
 ……なにも言わずに消えるなんて、やっぱり私はレジスにとって、その程度の女だったんだわ。
 卑屈になることしかできない自分にも嫌気が差す。

< 87 / 108 >

この作品をシェア

pagetop