ミスアンダスタンディング
バタンっと閉じたドアに背を預けながら、はぁーっと長い溜め息を吐き出す。
(焦った…。)
ドクドクと乱れた音を奏でる心臓。熱を帯びた頰はきっと紅く染まっているに違いない。
あんな人通りの多いところで好きだと連呼されるなんて、滅多にない経験だろう。嬉しいやら恥ずかしいやらで頭の中はこんがらがっている。
ふぅ、と自分を落ち着かせるための息をひとつ吐き出す。
「みぃ、とりあえず話しを…っ!」
今度こそきちんと話しをしようと開いた口は、突然みぃの口に塞がれた。
Tシャツの首元をこれでもかというくらいに引っ張られ前屈みになる俺に、みぃは半ばヤケクソ気味に唇を押し付けてくる。
みぃからキスしてくるなんて珍しいどころか初めてのことで、俺の頭の中はこんがらがる一方だ。
「っ…ちょ、みぃ待って、」
「やだ…っ」
慌てて肩を掴んで密着していた身体を引き剥がせば、みぃは駄々っ子のように首を横に振る。
…なんだこの可愛い生き物は。
内心悶絶している俺を、涙をいっぱいに溜めた目が見上げてくる。
「だって…っキスもしてくれなくなった…!」
「…え?」
涙声で放たれたそれに、間抜けな声がポロリと零れ落ちた。
「…なんでなの?」
「……」
「…私、もう要らない…?」
キツく目を閉じてポロポロと涙を流すその姿に、胸がズキズキと痛み出す。
思い当たる節はたくさんあった。
だって、めちゃくちゃ我慢してたから。
キスだけなら…と、そう思っても一度触れてしまえば止められる自信がなく、それすらもしないようにしていた。
だけど、もしかして…
いや、もしかしなくても、俺…知らないうちにみぃのこと、傷つけてた?
「ごめん、みぃ。そうじゃない。要らないとか絶対ないから」
「じゃあなんで…っ」
頬を伝う熱い涙を指で拭う。幾ら拭っても拭い切れないほど溢れ出してくるそれが、みぃがどれだけ不安になっていたかを知らせてくる。