先生がいてくれるなら①【完】
私は何事も無かったかのように授業を進める先生の顔を見ることが出来ず、耳だけはなんとか先生の声を拾うものの、目線は教科書とノートに集中させる事しか出来なかった。
だけど黒板に書かれた数式を書き写すには前を見ないわけにはいかなくて……。
先生が板書している間──私たちに背を向けている間に、私は渋々顔を上げる。
そうすると、先生の後ろ姿が嫌でも目に入る。
ボサボサの頭、長い前髪、ダサい眼鏡、なんだかもっさりした服装、いつもの無表情──。
昨日の夜の先生とは別人みたいに見える。
でも、やっぱり中身は、同じ人なんだよね。
どんな時でも──毒舌の裏にでさえ、優しい心と言葉を隠してる。
先生が板書する後ろ姿を見ながら、ギュッと胸が締め付けられて、ズキズキと心が痛むのが分かった。