先生がいてくれるなら①【完】
恐怖で何も返せない私を余所に、車は私の家の前に到着した。
ハザードランプを点滅させ、光貴先生の運転する車がゆっくりと私の家の前に停止する。
「あ、ありがとうございました……」
シートベルトを外して前に座る二人に頭を下げると光貴先生が「どういたしまして」と優しい笑顔で応えてくれたが、孝哉先生は腕を組んだままピクリとも動かない。
私が車から降りると、光貴先生も車から降りて「文化祭、頑張ってね」と言って手を振ってくれた。
「はい、ありがとうございます、頑張ります……」
もし良かったら文化祭見に来て下さい、と言いかけて、私は口をつぐんだ。
光貴先生は忙しいから高校の文化祭どころじゃないはずだし……。
「じゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさいっ」
私はペコリと頭を下げて、玄関扉を開ける。
中へ入る前にもう一度車の方に目をやって──孝哉先生を見たけど、先生はこちらを見る事無くただ黙って不機嫌そうに座ったままだった。
ヒラヒラと手を振ってくれている光貴先生に向かってもう一度お辞儀をして、私は扉を閉めた。
また、孝哉先生を怒らせてしまった。
私はあの人を怒らせる天才、なのかも知れない──。