先生がいてくれるなら①【完】

先に口を開いたのは、先生だった。


「──立花、こっち見て」


私は小さく首を振った。


「……じゃあ、見なくて良いから、聞いとけ」


何も言わず俯いたままの私に、先生はいつもより少しだけ優しい声で続けた。


「泣きたい時は泣けよ。誰かに話して楽になるなら、話した方がいい。悲しみとか苦しみは、溜め込んでも苦しいだけだから。一人で抱え込むな」




そんな事言ったって、無理だよ……。


お父さんも、お母さんも、同じ思いを抱えてる。


それをお互い言い合ったって、悲しくなるだけ。


泣いたって、お兄ちゃんの体調が良くなるわけじゃ無い。


それに、苦しいのは私じゃ無くて、きっとお兄ちゃんの方だ。




でも────




ありがとうございます、と心の中で先生にお礼を言った。


きっと、私のためを思って言ってくれてるから。




私は小さく頷いた。


私の手から、先生の大きくて冷たい手が離れていく。





それを、少しだけ寂しいと思った──。


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