先生がいてくれるなら①【完】
私が何も答えないでいると、先生はまたため息をついた。
「お兄さんの具合、悪いのか?」
「……多分」
「そうか……」
車が私の家の前に着くまで、私は一言も話さなかった。
何を話しても、泣いてしまいそうになるから。
ハザードランプを点けて、車がゆっくりと停車する。
「──ありがとうございました」
私は少し震える声でそれだけを言ってシートベルトを外そうとすると、先生は、またあの日みたいに私の手を掴んだ。
やっぱり先生の手はとても冷たくて、その冷たさに少しビクッとしてしまう。
私は顔を上げずに、先生が何を言うのか、言葉を待った。
でも、先生も無言のままだ。
先生がどんな表情で私を見ているか少し気になったけど、私は顔を見られたくなくてずっと俯いていた。
エンジンの音だけが、車内に低く響く。