最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
ところが、こちらに視線を向けた彼は、どことなく冷ややかな瞳と声色で言う。


「……さあ。誰?」


あれ? 今、菫さんの名前に反応したよね。本当に知らないのかな。

わずかな疑心が生まれるも、慧さんが纏う空気が急に冷えた気がして、あまり深い話はしないほうがよさそうだと直感する。


「妊婦検診でたまに一緒になる人なんです……けど、知らなければいいんです。気にしないでください」


私はへらっと笑い、シンクのほうにくるりと身体を向けた。

今の私の言い方、なんだか意味深になっちゃったよね。なのに、慧さんはなにも聞き返さない。それも不自然な気がする……。

え、なんだろう。気になってしょうがないんですが。単なる私のはやとちり?

詳しいことはなにもわからないのに、勝手にあらゆる関係を想像してしまい、私はひとり悶々としていた。


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