最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
そのとき、私は急に異変を感じて自分の下半身を見下ろす。まるで生理のような、勝手に液体が流れ出る感覚を覚えたのだ。


「あ……? えっ、ええ?」


座ったまま身体をひねってお尻を見て、私はギョッとした。お漏らししたみたいに、マタニティパンツがぐっしょりと濡れている。

「ぎゃー!」と思わず叫ぶと、驚いてこちらに来た菫さんも、私のすぐそばにしゃがんで声を上げる。


「えっ、これって、まさか破水!?」
「どっ、どどどどうしよう!?」


破水って、もう!? 初産は予定日を過ぎることも多いと聞いていたし、まだまだだろうと思っていたのに!

まさかの緊急事態に、つい今しがたのシリアスな雰囲気はどこかへ吹っ飛び、あたふたする私たち。


「と、とりあえず救急車……じゃなくて、産婦人科に電話!」


慌ててスマホを取り出した菫さんが、「えーとえーと」と焦りながら電話帳をスクロールしている。私のために手助けしようとしてくれている姿を見て、やっぱり菫さんはいい人だと確信した。

彼女に感謝するも、頭の中は軽くパニック状態だ。

もしかして、お腹が張っている感じがするのは陣痛だったの? マジか……!

このまま出産になるのかな。慧さんは間に合う?

急に襲ってきた緊張と不安でいっぱいになりながら、私はこれからどうするべきか必死に思考を巡らせていた。


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