最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
周りの社員も、口には出さないが同じように思っているだろう。私たちがオフィスで話すことはほとんどないし、一応新婚だというのに甘い雰囲気がまったく漂っていないし。

ついでに、私がエムベーシックの社長令嬢だというのも、皆知ってはいるけれどたいして気にしていない。変な気を使われたくないのでそのほうがありがたいのだが、時々複雑な心境になるときもある。

今も斜め後方の席にいる男女が、私がそばにいると気づいているのかいないのか定かではないが、慧さんについて話している。


「畔上社長、また自分で大口の契約取ってきたみたいよ。さすがよね」
「成功パターンを熟知してるんだろうな。きっとクライアントの悩みに寄り添うのが上手いんだよ」


ノートパソコンを開きながら聞いていないフリをしてしっかり耳に入れ、私も心の中で唸った。

慧さんはやはりやり手だ。マーケティング部長だった頃も、名だたる上場企業からあっさり案件を獲得してきて、営業部顔負けの成果をあげたこともあったし。

本人は〝この契約は取れて当然〟というような涼しい顔をしていて、その度胸には感服したっけ。
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