釘とパズル
「あのねレイナちゃん、今日はお月様が出ているんだよ。頑張って見てみようか?」
「うん。見たい。一緒に見ようよ」
足の裏から伝わる強化プラスチックの冷たい感触が頭の上に来た所で“ズキン”と激しい痛みが全身を襲う。
「うっ・・・」
体の力が抜けレイナは”ポトリ”とプラスチックの上に転がった。
そして私はベランダの隅で嘔吐する、胃が何度も跳ね上がる。
少しふらつきながらもレイナを拾い上げ、歯を食いしばりながらベランダの手すりをつかみ上半身を手すりに乗せる。
ベランダから身を乗り出すとコカコーラの自動販売機の光が飛び込んでくる。
ここから下までの高さは20メートルほどあるだろうか?
「ねぇレイナ、ここから飛び降りたら死ねるかな?」
「ダメだよ、レイナちゃんは、まだ見てないでしょ?」
「見てない?何を?」
「それは秘密だよ。だってそれを言ったら死んじゃうだろ?」
「・・・だったらまだ死ねないね」
「ボクも一人ぼっちは嫌だし」
「ごめんねレイナ」
私はレイナを抱きしめて月を見る。
「綺麗だね」
優しい光を放つ三日月、子供の頃に見た時とは印象がずいぶん違い驚いた。
「やっぱりウサギさんには見えないね」
レイナの目から涙が流れた。
「うん、そうだね」

“ブブブブ”と羽音を立て先ほどの蛾が私の横をすり抜ける。そしてあっという間に暗闇に消えていった。
「君はもう迷い込んだらダメだからね」
私の小さなヒーローは暗闇という大空へ羽ばたいて行った。




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