独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

「……見にくいな」

 オペ開始から五時間が経過した頃、ふと、蓮見先生が呟いた。手術用顕微鏡を覗く目が、険しく細められている。

「愛花先生、押さえといて。ちょっと目が霞んできた」
「はい」

 指示に従い、注意深く顕微鏡を覗きながら患部を押さえる。こういう長丁場のオペでは、蓮見先生ほどの医師でも時々手を休めないと集中力や腕の筋肉がもたないのだ。

 顕微鏡から目を離した蓮見先生は息をつき、こわばった首を動かしている。

 大丈夫、美波ちゃん。あと少しだから……。

 心の中で、彼女に語り掛けていたその時だ。

 視界の端で、蓮見先生の体がゆっくり傾くのがスローモーションのように映って。

 ――ドサッ!

 激しい音とともに、蓮見先生が床に倒れ込んだ。

「蓮見先生!?」

 オペ室は一瞬にして騒然となった。蓮見先生の状態が気になるが、患部を押さえている私は手が離せない。

 執刀医がオペの途中で倒れるなんて初めての経験だ。パニックになりそうな思考をなんとか落ち着かせ、なにをするべきか瞬時に判断し、叫ぶ。

「小田切先生……小田切先生を呼んでください!」

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