独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

『ごめんなさい。お姉さんの頼みでも、それはできません。私の手術、とても難しいんですよね。失敗したら、死。そうでなくても、障害が残る可能性だってある』
『……どうしてそんなに悪い方へ考えてしまうの?』
『自分の父が……手術中に亡くなっているからです』

 そう話す美波ちゃんの、ぎゅっと布団を掴む手が震えていた。

『父も、脳腫瘍だったんです。でも、早期に発見できたから、手術で全摘すれば治るって。そう聞かされていたから、笑顔で見送ったのに……手術を終えた時にはもう、動かなくなっていて……』

 彼女によると、オペでいざ開頭してみると、画像で診断していたよりも腫瘍が大きく、また摘出しづらい脳幹部にまで広がっていた。

 脳幹は、中枢神経の集まった、人間の生命維持に欠かせない器官。執刀医はできるだけ腫瘍を取り除こうとしたが、操作のわずかなズレで、そこを傷つけてしまった――。

『……あの時のつらさや悲しみを、颯には味わわせたくありません。お姉さんやここの先生方を悪く言うつもりはありませんが、やっぱり、お医者さんだって人間です。完璧な手術なんてあり得ない。だから、颯とは別れたんです。もっと健康で、明るい未来をくれるような彼女と、幸せになってほしいから』

< 113 / 224 >

この作品をシェア

pagetop