独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

 そういえば、今日の当直は彼だったっけ。

「この時間が一番集中できるので」

 顕微鏡から目を離さずに答えると、呆れたようなため息をついた彼が、隣のデスクの椅子を引いて、どかりと腰掛ける。

「でも、ほぼ毎日だろ。技術の向上も大事だけど、休むのも大事だよ」
「そういう小田切先生も、最近ご自宅に帰っている様子が見られませんが」
「それはほら……ただめんどくさいっていうかさ、俺は帰ったところで家に誰もいないしね。でも、愛花先生は実家暮らしだろ? ご家族も心配する」

 ああ……ダメだ。話していたら集中力が切れた。

 私はあきらめて顕微鏡から目線を上げると、ぶすっとしながら小田切先生を見た。

 前髪を横に流した、ナチュラルな印象の黒髪ショートヘア。大きな瞳とふっくらとした涙袋、高い鼻梁に、くっきりとした輪郭の唇……。ナースたちを常に虜にしているのも頷ける、端整な顔立ちである。

 立てばわかるが上背もあり、この大きな体でよくあんな細やかな手術ができるものだといつも思う。

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