独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

 こ、怖すぎる……。小田切先生の女除けのために結婚を持ち掛けたのは私だが、予想以上にナースたちは彼にご執心だったようだ。

 あの調子では、どんな手を使ってでも彼の妻が誰なのかを探りそうだ。

 私だとバレた日には、どんな仕打ちが待っているか……。

 彼女たちの会話をそれ以上聞いていられなくて、食事はまだ途中だったが、私は定食のトレーを手にそそくさと席を立つのだった。


 午後のオペに入る直前、手洗い場で小田切先生と一緒になった。私は食堂での恐怖体験を思い出し、隣で涼しい顔をしながら手を洗う彼に文句をぶつける。

「小田切先生。あまりナースたちを刺激するようなこと言わないでください」
「え? 俺なにか言ったっけ」

 ……無自覚か。余計にタチが悪い。

 私は彼をひと睨みして、勢いよく出した水で手をすすぎながら彼に釘を刺す。

「勝手に理想の奥さんを妄想するのはいいですが、あくまでこの病院〝外〟の人間ってことにしてください。その方が、彼女たちも余計な気を揉まなくて済みます」
「……まぁ、愛花先生がそうしてほしいなら」
「では、よろしくお願いします」

 よし、これで私の身の安全は守られた。心おきなく手術に専念できる。

 私は安堵しながら彼より先に手洗いを済ませ、フットペダルでオペ室のドアを開けた。

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