背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
「はははっ」

 笑ってごまかすしかない。


「本当にカッコいいですよね。来社された時の湯之原さんの様子がおかしかったから、変だと思ったんですよね。昔の彼氏とか思っちゃいましたよ」
 
 こちらに向けられている河合さんの顔は、満面の笑みだ。


「ちょっとした知り合いなだけだから……」


 と、言ってみたが、無理だろう……


「もう、いいですよ。さすが湯之原さん。あんな素敵な彼氏が居たんじゃ、誰もかなわないわけですね」


「何言ってんのよ。私なんて、誰からも相手にされないから大丈夫よ」


「はあ? 何言ってるんですか?」



「だって、ここ数年、男の人から誘われた事もないわよ。だから、まあ、この歳になっても彼氏も出来ないんでしょうけどね」

 別に彼が欲しいなんて思ってないけど、一応言っておく。


「それ、本気で言ってます? 湯之原さんのファンは、この会社だけじゃないですよ。取引先に何人いる事か? 姿を見れるだけで興奮してる男性社員だっています。ただ、大物彼氏が居るから、皆、遠くから見てるだけなんです」

 河合さんは、真剣な目で力説した。


「もう、大袈裟なんだから」


「でも納得。あんな、素敵な彼氏が居たんじゃ、他の男性なんて目に入りませんよね」


 河合さんは、勝手に納得して業務に戻ってしまった。

 何だか頭が混乱して痛くなってきた。

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