背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
 テーブルの上には、和食を中心とした食事がバランスよく並んでいた。スパーリングの日本酒もある。
 彼女と向き合って座り、今夜は、なんとなく透明な猪口を軽く交わしてから食事を始めた。


 よく考えればおかしな話だ。見合いで始めてあった女と、こうして二晩も共にしている。本来の俺なら、イライラしてどうしょうも無かっただろう。なぜ、こんなに風に、顔を合わせていられるのだろうか?

 でも、彼女を見ると、夕べの艶やかな姿を思い出してしまい落ち着かない。


 もっと、もっと、彼女を知りたいとさえ思ってしまう……


 気持ちを落ち着かせようと、酒に手を伸ばした。


 酒も食事も進むが、全くと言っていいほど会話が進まない。
 ベッドの上では、あんなに激しく求め合えたのに、まともな言葉一つ交わす事が出来ない。


 彼女の方を見ると、満足そうに料理を口に運んでいる。時々、盛り付けを眺めたり、材料を確認しているようだ。彼女は、旨い物が食べれれば、誰と一緒でも構わないんじゃないのかと思ってしまう。


 でも、美味しそうに目を細めて食べる彼女を、可愛いと思った。
 そんな自分に驚き、慌てて酒を流しこんだ。


「お酒強いんですね」


 彼女が、俺の手元の猪口を見て言った。


「そうか? こんなもんだろ。あんたも、強い方なんじゃないのか?」


「私は、お酒が好きなだけです。沢山飲みたい訳じゃないですよ」


 肩をすくめた彼女の猪口を見ると、少しづつ味わっていたのが分かる。

 まさか、気持ちを落ち着かせるために、酒を流し込んでいるとも言えない。


「この、お魚の煮つけ、すごく美味しいですね」


「そうだな。俺は、この炊き込み飯も旨いと思うが」


 やっと、まともな会話が出来た気がした。
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