背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
 私は、着物一式を寝室へと運び、着付けを始めた。ママのようにはいかないが、普通には着る事が出来る。



「着物きれるんだ?」

 帯締めをぎゅっと結ぶと、ワイシャツを着た彼が寝室の入り口に立っていた。


「このくらいは出来ますよ」


「あんまりキツク締めるなとよ。また、脱がすのは勘弁してくれ」


 うっーーー

 全て帯がきつかった事から始まっている気がして、何も言えない。


 私は、彼の言葉を無視して、テーブルについた。


「いただきます」

 姿勢を正し、両手を合わせた。


 彼も、席についた。


 着物を着ている、彼もスーツを着ている。服を身にまとうだけで、人は落ち着くものだと知った。


 食後のコーヒーをゆっくりと飲み終えると、

「そろそろだな」

 彼が、腕時計に目をやった。


「そうですね」



 私は、立ち上がって、バッグの置いてあるソファーへと向かう。


 そうだ、この部屋を出れば私達はどうなるのだろうか?
 豪華な客室をゆっくりと見渡した。

 何でこうなったのかと、もう一度思い返してみた。


 お見合いをしたんだ。
 お見合いってなんだっけ?

 お見合いをした後は、多分……
 なんらかの返事をするのだと思う。

 断ってそれっきりになるのか、結婚を前提にお付き合いをするのか?


 結婚?
 結婚なんて望んでなかった。彼だって、結婚なんかするつもりないとはっきり言った。


 ネクタイを締めながら近づいてくる彼の姿は、正直、絵にかいたように綺麗で、目を細めてしまいそうなる。


 私達は、このお見合いを断るのだ。


 私は、彼に目を向けた。


「どうした?」


 スーツの上着を羽織る彼の目と重なった。


「私達、お見合いしたんですよね?」


「ああ。そうだ」


「私達は、お互い結婚する気なんてなかった。両親に無理矢理お見合いさせられただけ……ですよね?」


 彼の目尻が、一瞬上がったように見えた。


「ああ、そうだな」


「だけど……
 だけど、こんな事になってしまった……」
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