約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

「ダメです」

 見つめ合うと少し熱が籠ったように訊ねられた。だが、きっぱりと即答する。

 良いわけがない。雪哉は恋人ではない。恋人以外とキスはしないし、する理由もない。その全ての意味を内包した『ダメです』だったのに、雪哉には『どうして?』と首を傾げられてしまった。

 どうしても、こうしても、ない。良い理由が0個に対して、ダメな理由が100個あるからだ。

「離れて、ユキ」

 転ばないように助けてくれたことは有難いが、そのお礼なら別の形で還元させて欲しい。とりあえず雪哉の要求を飲むことは出来ないと意思表示すると、ムッとした声で訊ねられる。

「彼氏とはキスしてるのに?」
「な、何言って…!」

 突然恥ずかしい確認をされて、思わず視線を逸らす。挙動不審になってしまった様子をじっと見つめられ、顔に火が付いたように熱が広がっていく気がした。

(それは、す、するでしょ……彼氏だもん)

 別に赤面症な訳ではないが、雪哉がいつも意味不明な事を言うので、つい顔に出てしまう。

 弘翔といてこんなに恥ずかしい気持ちになることはない。弘翔は揶揄うことはあるが、愛梨が困るようなことを聞いたりはしないから。

「彼氏とどこまでした?」
「そ、そんなの言わないよ」

 詰め寄る言葉は、更に剣呑さが増している。『ダメです』とちゃんと言ったのに、雪哉の長い指はいつの間にか愛梨の顎先に触れていた。
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