約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
「ご、ごめん。ユキ……」
「大丈夫? 怪我してない?」
なまじ大転倒するより恥ずかしい。転ばずに済んだ安堵と共に羞恥心を覚えて腕の中で謝罪するも、雪哉には愛梨の謝罪などそっちのけで怪我の確認をされてしまう。
確かにヒールが引っかかって転びそうにはなったが、雪哉のお陰で転倒はしていない。もちろん、怪我もしなかった。
「大丈夫、大丈夫。ユキこそ……」
痛くなかった? と訊こうとしたのに。
身体を少し離して見上げた表情に、思わず視線が奪われてしまう。雪哉は少し驚いたように目を見開いて、愛梨の瞳を覗き込んでいた。
思っていたより顔の距離が近い。雪哉とこんなに至近距離で見つめ合うのは、15年前のあの日以来だ。
(本当、カッコよくなったなぁ)
雪哉は私の王子様なの。友理香が食堂で言っていた言葉を思い出す。
短く切り揃えられたストレートの黒髪と綺麗に通った鼻筋とやや薄い唇は、確かに爽やかだ。
一重の鋭利さと二重の柔らかさを良いとこ採りした奥二重は昔とあまり変わらないのに、他のパーツと相性がいいのか以前よりも男性らしく見える。肌と目と髪の色は日本人そのものだが、全体の印象から考えると確かに雪哉は王子様らしいのかもしれない。
(私が知ってるユキじゃないみたい)
そんな事を考えながら雪哉とじっと見つめ合ったのは、1秒にも満たない僅かな時間だったのか、それとも1分は経過していたのだろうか。
雪哉の黒い瞳が優しく揺れているのに気付き、はっと我に返る。
心配そうな顔をする雪哉にもう1度お礼を言って離れようとした愛梨の思考を、雪哉の言葉がまた掠め取った。
「愛梨。キスしてもいい?」