約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 約束を破ることが悪いことだとは理解していた。けれど、それでどうしてこんな仕打ちを受けなければいけないのだろうか。大好きな恋人を裏切ることを強要される、罰を。

「愛梨と彼氏の間に恋人同士の『秘密』があるのと同じ。愛梨と俺の間にも、彼氏に言えない『秘密』が出来た」

 そして無理矢理、秘密を共有させられる罰を。
 こんな罰を受けなければいけないと知っていたら、一緒に資料室まで来たりなんかしなかった。その前に、交わした約束から逃げなかった。そもそも、あんな約束なんてしなかったかもしれない。

「弘翔に、浮気だって勘違いされたり、責められるようなことはしないって……言ったのに……」
「愛梨が黙ってれば、勘違いも責められもしない。『秘密』っていうのは、そういう事だ」

 更に非情で冷徹に言い放った雪哉の言葉を、これ以上聞いていられる気がしなかった。

 約束を簡単に破っているのは、雪哉の方だ。『困らせるような事はしない』と言っていたのに、こんなにも苦しい思いをさせて。『嘘はつかない』と言っていたのに、簡単に嘘をついて。

 でもその態度も、嘘をつく事も、はじまりが15年前に交わした約束を一方的に反故にした愛梨が悪いと言われてしまったら。返す言葉もない、けれど。

「ユキのばかぁ…! 大っ嫌い!!」

 こんなのは、あんまりだ。

 雪哉の身体を力任せに押し退けると、依頼された資料もそのままに、資料室を飛び出した。

 溢れ出した涙で、前が上手く見えなくて途中で1度誰かにぶつかって謝った気がした。だが後から思い出そうと思っても、それがどこの誰なのかは、まったく思い出せなかった。
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