約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 だが雪哉は怯まなかった。正義感がそれほど強いとは思っていなかったが、友理香に対する怒りを収めてくれない。冷たい瞳で友理香を見下ろす雪哉は、愛梨に対する怒りとは別の怒りを向けているように感じられる。

「友理香ちゃん。本当に誤解なんだよ」

 雪哉の怒りを鎮める方法がわからない。それならば、まずは友理香にちゃんと謝罪をさせた方が早い。そう判断したので雪哉の説得を一旦放置して、友理香に向き直る。

「私ね、河上さんと幼馴染みなんだ」
「え…?」
「仕事に支障がないようにお互い知らないフリしてたの。この前、通訳室で会った時は……少し昔の話をしてただけ」

 言い聞かせるように語ると、俯いていた友理香の意識がこちらに向いた。

 愛梨が語る内容には、少し嘘が混ざっている。けれどほとんどは本当の事だ。現状、社内で愛梨と雪哉が幼馴染みであることを知っているのは弘翔と玲子のみ。他の人が知っていても得はしないので、余計なトラブルを回避するために黙っていただけだ。

 だから友理香が知らなかったのも無理はない。それに愛梨は、雪哉の事を好きなわけではない。

「友理香ちゃん、前に言ってたでしょ。私が彼氏とラブラブなんだって」
「う、うん」
「ほんと、そうなんだ。私、弘翔の事が好きなの。だから河上さんとどうこうとか、絶対にないから。――絶対に」
「愛梨……!」

 それまで黙って聞いていた雪哉に、鋭い声で制止される。顔を上げると、少し焦ったように雪哉の表情が歪んでいた。直接『連絡しないでほしい』『彼氏を不快にさせてしまう』と言った時よりも、今の方がよっぽど傷付いた顔をしている。そしてその焦りを吐露する様に、雪哉は小さく息を洩らす。

「勝手に話を収めないで欲しいんだけど。個人でどうにかなる問題じゃないって言ってるのがわからない?」
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